My Bloody Valentine / Tremolo E.P. (1990)

My Bloody Valentineの『Isn't Anything』(1989)に続くアルバムにして永遠の大傑作、『Loveless』(1991)にも収録されることとなる「To Here Knows When」を軸に据えた『Tremolo E.P.』(1991)を取り上げてみます。
最初に確認しておきますと、彼らMy Bloody Valentineはこの4曲だけでアルバム1枚分に匹敵する完成度を提示して見せ、尚且つ濃密な音世界を描き切っています。
『Loveless』への布石としましても充分過ぎる、非常に天晴れなEPです。
美しく、儚く、幻想的で官能的で、まるで白昼夢そのものです。
そうは言いましても『Loveless』となりますとさらなる高みに位置する訳ですけれども。
まずは1曲目のM1「To Here Knows When」につきまして。これはもうあの世の音楽です。
このまま逝ってしまっても構いません。むしろ逝かせて欲しいなどと勢い余ってしまいます。
時空が歪んでしまうほどに混沌とした揺らぎの音世界にゆっくりと微睡み、堕ちて行くことの心地よさと来ましたらそれはもう格別です。
続くM2「Swallow」がこれまたM4「Moon Song」とはひと味もふた味も異なる、東洋というよりはオリエンタルな趣向に根ざしていまして、否応なく身体の自由を奪われ麻痺して行きます。
M3「Honey Power」の場合、Bilinda Butcherの儚い歌声も疾走感もこれまで通りの彼ららしい1曲です。
という訳で自ずと『Loveless』収録には至らない凡庸さはこのEPの中に限った話でして、楽曲自体は非常に魅力的です。
M4「Moon Song」の極めて魅惑的な曲調を異国情緒、無国籍感覚といくらでも呼ぶことが出来るのですけれども、とにかく摩訶不思議な音世界です。
作品を発表する度にそれがMy Bloody Valentineにしか生み出すことの出来ないものだと納得させられていたところにこのM4「Moon Song」をぶちかまされましては意識朦朧、理性すら吹っ飛んでもおかしくない1曲です。
このEPをこれほどまでに持ち上げてみせる理由のひとつに収録曲を繋ぐインストゥルメンタルがあります。
断片でしかないものが各曲の触媒として有機的に結び付き、整合感を超えた物語性さえ感じさせる朧げな音像なのです。
輪郭を失うほどに眩い1曲です。
♪「To Here Knows When」My Bloody Valentine
♪「To Here Knows When」My Bloody Valentine
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