Alex Chilton / 1970 (1996)

驚愕の未発表音源集とはまさにAlex Chiltonによるこの『1970』(1996)のことでしょう。
「The Letter」(1967)の大ヒットも束の間、そのThe Box Topsが尻すぼみに終わった失意の末に地元Memphisで1970年に録音したのが本盤、『1970』の13曲だったという話です。
解説によりますとどこから発売すべきか逡巡しているうちにお蔵入りの憂き目に遭ったということですけれど、考えられない事態ですね、これは。
その間、25年も忘れ去られていたなんてまったく呑気な話ですよ。
後にTeenage FanclubやThe Posiesへと影響を与えたBig Starのポップな側面などお首にも出さない土臭くも埃っぽい音ばかりです。
初期のBig Starばりのギターポップなどを期待してしまいますと痛い目に遭います。
音の作りについては近年の作品に近いのでしょうか、これが即ちスワンプ・ロックなのかブルーアイド・ソウルなのかどうかは脇に置くとして、25年という時間の重みやらAlex Chilton本人の持つ業の深さにどうしても思いを馳せてしまって、何とも奇妙な心境にならざるを得ません。
想像を超えるほどに骨太でやさぐれたM6「All I Really Want Is Money」から憧憬を綴ったM7「I Wish I Could Meet Elvis」への切り返しなどは実に対照的でして、R&Bやファンク、カントリーをも飲み込む資質には感心するばかりです。
インストゥルメンタル曲のM12「Funky National」ではそのファンキーさが前面に出されているだけありまして、逆回転ギターの音が差し込まれつつあっさりと尻切れとんぼで終わってしまうのが非常に残念ではありますね。
と思いきや続く最終曲、M13「Sugar Sugar/I Got The Feelin'(Heavy Medley)」の怒濤のメドレーが素晴らしい出来映えなのです。
M11「Jumpin' Jack Flash」The Rolling Stonesですら充分にいなたいのですけれども、副題に違わぬドシャメシャなカヴァー2連発があまりにも強烈過ぎます。
コテコテならぬヨレヨレでヘロヘロなファンクが一閃、高揚感どころかズブズブと底なし沼に引き摺り込まれるような感覚に陥ります。
必要以上に神格化されている節も確かにありますけれども、こういうことをやられてしまいますとそれも無理はないことだろうと思わず納得です。