水谷公生 / A Path Through Haze (1971)

水谷公生の『A Path Through Haze』(1971)です。
旧ブログからの単純な転載です。
水谷公生にとって初めてにして唯一のソロ・アルバムは全曲インストゥルメンタルで占められています。
そんな『A Path Through Haze』(1971)を白熊店長さんが採り上げていらしたので、1998年発売の紙ジャケットCDを引きずり出して執拗にじっくりと聴いてみました。
手持ちのCDは、曽我部恵一とサミー前田による監修の“日本のロックの夜明け”というシリーズの第8弾です。また、故黒沢進が解説を手掛けております。
水谷公生がグループ・サウンズ時代に在籍したアウト・キャストの場合、ガレージ・パンクの傑作である「電話でいいから」などの勢い任せの疾走感にばかり気を取られてしまいがちです。
そのギタリストがジャズ・ロックをとなりますと訳も判らぬままにわかに色めき立ちまして。
紙ジャケットCD化ならばなおさらにといった理由をこじつけてから10年弱になるんですね。
『A Path Through Haze』に話を戻しまして。
喧伝されているようなジャズ・ロックということもなく、そうかと言ってよっぽど自己中心的なまでにギタ-を掻き鳴らしているかと思いきや冷静に全体を統制していることに気が付かされますし、1971年に録音されていたという先進性には脱帽です。
ドラムスの細かいタム回しが推進力となって ギター・リフを丹念に重ねて行く表題曲M1「A Path Through Haze」からアルバムは始まります。
どちらかと言いますとM3「Turning Point」までは抑え気味でして、M4「Tell Me What You Saw」以降の暴発ぶりが興味深いです。
そのM4「Tell Me What You Saw」では各楽器がのたうち回るように走り出し混沌とした音の渦を作り出していますよ。
破綻寸前とまでも行きませんけれど、相当に歪んでいましてことのほか気持ち良いのです。
モーグ・シンセサイザーの妙ちくりんな音色が随所で顔を出すM5「One For Janis」の場合、オルガンを背に縦横無尽に駆け巡るギター・ソロともども聴き応え充分です。
ひょっとしたら、このM5「One For Janis」がいちばんのお気に入りになるのかも知れません。
M6「Sabbath Day's Sable」では綺麗なストリングスと端正なピアノに否応なく惹き付けられてしまいます。異色と言えばそれまでですけれど、美しい1曲に変わりありません。
ここでのドラムスが訳もなく心地良く感じられます。
ブルースの色濃いM7「A Bottle Of Codeine」を経て、最終曲のM8「Way Out」では何と女性のスキャットを交えた優雅さまで顔を覗かせております。意外過ぎますね。
いちばん初めに聴いた際には、実はさほど好印象を抱かなかったことを告白いたします。
拍子抜けというのとは逆に、その高みにほとんど反応することが出来なかったというのが実際のところなのではないかと今になって感じる訳です。
きちんと向き合って耳を傾けてみますと意外なほどに各曲の輪郭がくっきりと浮き上がって来まして、各々の個性や演奏者の技、工夫の跡が印象深く残るものです。
1971年の段階でこのような音が日本において鳴らされていたとはまさに驚くべきことです。ヨーロッパで海賊盤が製作されるほどに人気を呼んだという事実にも大いに納得です。
ちなみに1971年と言えば私、chitlin北沢オーストラリアがこの世に産み落とされた年でもあります。
そんな時期に知ってか知らずかサイケデリックやジャズ・ロックの側面をちらつかせつつも紛いものでもなくかぶれていることもなく、言葉本来の意味でのプログレシッヴ・ロックを打ち出してしまっているというのはある種の奇跡に近いのではないでしょうか。
以上、4年前のエントリでした。長々と書いていましたね。
ただし、刺激的極まりない『A Path Through Haze』そのものの価値はこの40年、何ら変わりもなくこれからもそれは変わりようがないだろうなという風に感じる訳です。