
本作は、中盤に
カルトGSコレクションが組み込まれた
幻の名盤解放歌集*BMGビクター編に当たる『
資本論のブルース』(1993)です。
“すべての音盤はすべからくターンテーブル上(CDプレーヤー内)で平等に再生表現される権利を有する”この宣言通り、この世の果てに打ち捨てられた特異な歌謡曲の亡骸を掬い取るべく活動に勤しむ
幻の名盤解放同盟。
立ち籠める英国の霧よりも深い歌謡曲の一大絵巻として彼らが丹精込めてまとめ上げた編集盤シリーズを採り上げて行きます。
表題曲でもありますM1「
資本論のブルース」では出だしの“
ゲバルト デカンショー ホイ”が軽妙なお囃子にしか聞こえませんので、ブルースどころの話ではありません。のっけから表題の割にはブルースからほど遠い1曲で始まります。
M2「
ぱぴぷぺぷぺぽ」の陽気さ(この表題もどうかとは思いますけれども)とは裏腹にM4「
だまされごっこ」で以て度肝を抜かれてしまいます。早くも本作の目玉であると同時に過激と言うにも限度というものがありまして、ここでは追求しないでおきましょう。
最後に響く、これまで虐げられた(と思わせる)女性の高笑いに背筋が凍り付きます。
間に挟まれました『
カルトGSコレクション』と来ましたらどれもこれも魅力的な9曲なのですけれど、その中ではM7「
太陽の剣」とM11「
悪魔がくれた青いバラ」に尽きるでしょうか。
ブルー・インパルスによるM7「
太陽の剣」とそのB面曲のM8「
夜明けに消えた恋」はどちらも汗が飛び散るようなコーラスにドタバタしたドラムス、印象的なホーンといった具合に若さがはち切れんばかりなのも特徴ですよ。
続くやるせなさに充ち満ちたM10「
苦しみのロック」の中で響き渡る“
あ~ もうやだやだ~”という叫びには甘酸っぱさも香るほどです。
アメリカ人GS、
リードの情緒的かつ格調高いM11「
悪魔がくれた青いバラ」には何度聴いてもうっとりさせられます。サントリーが開発に成功させるよりもはるか以前に“
青いバラ”が庭に咲いていたそうな。
本場仕込みのファズが唸りをあげるガレージ、M13「
マンハッタン無宿」を体験してしまいますとほかのGSが彼らからチョーキング奏法を盗んだという逸話にも頷けるというものです。
シルクロードというGSのM15「
蒼い砂漠」で聴くことの出来る歯切れ良さは本盤の中でも随一でしょう。動き回るベース・ラインにホーンも特徴的なブラス・ロックにしてデビュー曲だそうです。
幻の名盤解放歌集に戻りまして、M17「
くらいマックス」。“夜の帝王”こと
藤本卓也が一枚噛んでいるだけありまして、ファズ・ギターやクィーカなどの演出によって“
うひょうひょお~ぅ”という間抜けな雄叫びも様になっております。
突然のディスコ歌謡、M19「
Chieftain's Daughter '79」に続きまして
色鉛筆と名付けられました健気な児童合唱団による実況中継歌謡、M20「
嗚呼!深紅の旗東京に還る」には心打たれること請け合いですよ。
勝敗に関係なく高校球児たちの坊主頭に光る汗が感動を呼ぶ、ような気がします。
“桜美林学園高校”の読み仮名をこの曲で初めて知ったものです。(マテ
音源が足りなくて『
カルトGS』をぶち込んだことは誰の目から見ましても明らかなのですけれど、ネタ切れ転じて福と成すを地で行くような良作ですよ。
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